彼女が私の片想いに関して思いのほか興味を示した理由が、なんとなく分かった気がした。
といっても、片想いの経験は大して珍しいことじゃないから、博美さんのみならず、きっと美咲にだってあると思うけれど。
「もっとも、市村さんと、縁さん。どちらを選んで展開させるのかは、最終的にあなた次第なんだけどね」
「まあ……」
博美さんが市村さんとのことを知っているのは、例の口軽女のせいだった。
市村さんからの電話のときはいなかったし、その日は残業で一緒にチャクラにもいってないはずの博美さんが知っているのは、月曜日に美咲がバラしたせい。
ふたりで会ったというだけじゃなくて、何を着ていったか、どういう会話をしたのかまで、何もかも。
「余計なことだけど、個人的には縁さんだったら嬉しいわね」
茶化すような笑みを浮かべる博美さん。
「やめてくださいよお……」
「ごめんごめん。なんにしても、後悔はしないようにね」
「そのつもり、ですけど……自信はないです、正直」
「大いに悩んで、苦しんで、嘘のない心で答えを見つけなさい。たらればの多い30代に仲間入りしたくないならね」
でしょう?と優しく笑い、彼女は右手にはめていたカルティエのパシャを指差した。


