「こう見えて、中学から高校まで片想いをしてたことがあるの。片瀬さんと同じように、先輩に恋心を抱いてた」
「今の旦那さんですか?」
美咲の質問に、博美さんはかぶりを振った。
「だから羨ましいの」
「というと?」
私が先を促すと、博美さんは目を閉じて訥々と語り始めた。
「高校卒業して大学へ進学したとき、今の旦那と出会ったの。片想いをし続けるのが辛くなってたから、確率の低い成就よりも高確率な恋を選んだ。もちろん、今も十分に幸せだし、いつしか片想いの相手のことは心にしまいこんだつもりでいたけど――」
言葉を少し切って、先を継ぐ。
「これは旦那には内緒だけど、実は、今でもたまに思い出すことがあるの。あのとき躊躇せずに告白していればとか、できなくても、ずっと想い続けていればとかね」
腕組みをほどいて深くまばたきをし、博美さんは苦笑した。
いつもスマートに振舞っている彼女に、私と同じような片想いの経歴があったのは意外だった。
てっきり、スマートに生きてスマートな恋をし、スマートに結婚して幸せだけに歓迎されて暮らしているんだとばかり思っていたから。
私たちがかける言葉に迷っていると、博美さんは察したように口調を切り替えた。
「というわけで、勝手だけど片瀬さんには、こっちの分まで、気持ちを貫いてほしいなあって」
「そうだったんです、か……」


