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午前の業務をひと段落させ、私は昼食を早めに済ませてカウンターに戻った。
バッグから取り出して持ってきた、古いハードカバーの丸い背表紙をなんとなく指で撫でて、パラパラとめくる。
癖がついて自然に開くようになっているページには、あの日もらった写真が今でも挟まっていて、私は色褪せたそれを抜き取り、ぼんやりと眺めた。
「穴が開きそう」
事務所から出てきた美咲が、スツールに座りながら言った。
「穴?」
「暇さえあれば眺めてるから。収れん現象が起きそう」
「人の目を凸レンズみたいに言わないでってば」
まあまあ、と美咲は私の手から写真を取りあげ、舐めあげるようにまじまじと眺めた。
彼女はヤギじゃないけれど、一瞬食べられそうな気がした。
「それにしても、キレイに撮れてるわね」
「そう? 風で髪がぼさぼさなのに――」
「モデルじゃなくて、写真の撮り方のこと」
「あ、そう」
モデルは今のほうが美人よ、とフォローかどうかも微妙な答えを返し、彼女は私が開き持っていたページの間に挟みこんだ。


