初恋プーサン*甘いね、唇



。・*○*


午前の業務をひと段落させ、私は昼食を早めに済ませてカウンターに戻った。


バッグから取り出して持ってきた、古いハードカバーの丸い背表紙をなんとなく指で撫でて、パラパラとめくる。


癖がついて自然に開くようになっているページには、あの日もらった写真が今でも挟まっていて、私は色褪せたそれを抜き取り、ぼんやりと眺めた。


「穴が開きそう」


事務所から出てきた美咲が、スツールに座りながら言った。


「穴?」


「暇さえあれば眺めてるから。収れん現象が起きそう」


「人の目を凸レンズみたいに言わないでってば」


まあまあ、と美咲は私の手から写真を取りあげ、舐めあげるようにまじまじと眺めた。


彼女はヤギじゃないけれど、一瞬食べられそうな気がした。


「それにしても、キレイに撮れてるわね」


「そう? 風で髪がぼさぼさなのに――」


「モデルじゃなくて、写真の撮り方のこと」


「あ、そう」


モデルは今のほうが美人よ、とフォローかどうかも微妙な答えを返し、彼女は私が開き持っていたページの間に挟みこんだ。