「そろそろ来るよ、雛子」
隣に座っている美咲が、そわそわしながらせっついた。
もっとも、自分のことのように思って落ち着きがないわけではない。
彼女のそれは、片想いの私と気づかずの彼との「微妙な空気と行く末」が気になっているだけ。
十中八九。
「……う、うん」
腕時計を見ると、時刻は午後1時5分前。
朗読会の開始時刻まで、もうすぐだった。
カウンター右横の一角に設けられた、青いカーペットを敷いている広々とした空間には、子供たちがすでに集まっていた。
三方を、背の低い本棚で囲んだこのスペースは、カウンターからも様子をのぞくことができる。
これは、ひょいとどこかへ行ってしまったりしないように見張れる、という役割も担っている。
個人的には、朗読会の体にした保育園みたいな気がしてならないものの。
館長の指示でもあるので、文句は言えない。


