初恋プーサン*甘いね、唇


姿が消え、緊張とも寂しさともつかない糸が切れた私は、近くのベンチに腰を下ろした。


写真を手のひらに乗せたまま、さっきの10分を巻き戻しては、想いを巡らせる。



ありがとうの意味ってなんだろう。


なんに対してなんだろう。



考えても埒があかないけれど、何か考えていないとショックに一瞬で押しつぶされてしまいそうだった。


とりあえず適当に煩悩を引きずり出しては、考える種を作る。


今日はあのドラマの最終回だなとか、好きな歌手の新曲はいつだったかなとか、そろそろおこづかいを増やしてと交渉しなきゃとか。


くだらないことを一生懸命に悩んでみた。


でも、幸せと不幸せがいっぺんに詰まった10分そこそこは、すぐに描いた煩悩を蹴散らしてしまった。


時間が経つにつれて、実感だけがわいて出てくる。





もう彼はいない。




追うに追えないところへ行っちゃうんだ。



何もない放課後になっちゃうんだ。





ふうん、そっか――そっか。