2秒ほど、呼吸が止まった。
彼は言葉を継ぐ。
「だから、被写体の人に写真を渡していてね。君のも撮ったから、ぜひもらってほしい」
返事をしなきゃと口を開いたが、言葉が出てこない。
鯉のようにただパクパクとしか動かない。
涙で表そうとしたが、なぜかそれも出てこない。
声をかけられた幸せと写真の恥ずかしさ、加えて衝撃の告白。
食べ合わせの悪そうなそれらをミキサーに入れて混ぜたような、なんとも言えない感情が心を覆っていった。
食べ合わせといえば、少し前からお腹も痛かった。
緊張からか、寒さからか、昨日から始まった生理痛か。
「大丈夫?」
文字通り、呆然としている私を察した様子の彼が問う。
「あ、はいはい」
かろうじて、平静を装った返事をしたが、動揺と混乱の拍子に、持っていたメッセンジャーバッグを落としてしまった。
ああもう、と思いながらしゃがむと、彼も散らばったバッグの中身を拾い、派手に転がったペンやらノートを渡してくれた。
「あ、どうも」
お礼を言ってノートについた砂を払っていると、彼が不意に1冊のハードカバーを拾いあげて「これ」とつぶやいた。


