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「片瀬さん。ちょっとお願い」
「え?何か?」
整理をしている途中、博美さんがやってきて、カウンターを指差した。
後姿ではあるけれど、そこにいたのは市村さん。
仕事の途中だったのだろうか、ビシッとしたスーツを着ている。
「あなたに用があるんだって」
ここは任せておいて、と言われたので、交代した私はカウンターへ向かった。
別に喧嘩しているわけでもないけれど、時間が空くと、なんだかどういう表情をしていいのかがよく分からなくなる。
先に美咲が昼食を食べに行っていてよかった、と心から思った。
「市村さん?」
「あ……」
振り返った彼は、私に気づいてすぐに頭を下げた。
「ごめんなさい、雛子さん」
どうやら、昨日の件についてのお詫びみたいだった。
私の電話番号も、家も教えていないから、ここへ来るしかなかったらしい。
「いいんです。謝らないでください、気にしていませんから」
「だけど、あなたより仕事を選んでしまったことは、許されることじゃありませんから」
言い方が、なんだかすでに恋人同士前提のようになっている気がして引っかかった。
とはいえ、あんな切りあげ方をして悪びれる様子もない人よりは、よっぽど誠意がある。


