場数を踏んでいると思っていた推測は、もしかしたら的外れなのかもしれない。
人は見かけによらないし。
緊張でガチガチになる人もいれば、緊張をごまかすためにじょう舌になり、いつもより弾けようと振る舞う人もいるから。
ちなみに、私の場合は前者のほう。
「でも、こうしてお話しているうちに、ずいぶん緊張がほぐれてきて。そうしたら、急にお腹が悲鳴をあげだしたんですよ。たまたま映画の途中だったから、音響と混ざってやり過ごせましたけどね」
本当か冗談か、彼は自嘲気味の笑顔を浮かべた。
「ふふっ」
笑顔を返しながら、私は心の片隅で「話しやすいな」と感じていた。
乗っている車は別として、お金持ちをひけらかすでもなく、鼻にかけるでもなく。
格好つけたような話し方や話題に持っていくこともない。
むしろ、身近に感じられるエピソードや、晒すと恥をかいてしまうエピソードも、あっけらかんと話してくれる。
ふたりきりになるのが初めての状態で思うのもなんだけど、なぜか安心する。
自分を飾らず、背伸びもせず、ナチュラルに会話が交わせることは、かなりの高ポイントだ。
この点だけを見れば、片想い中の彼を上回っている。


