初恋プーサン*甘いね、唇



。・*○*


「行きましょうか、雛子さん」


映画をエンドロールまで見終え、ひと息つくと、もう午後2時を回っていた。


「はい」


車へ戻り、ようやく本来の目的のために、レストランへ向かうことになった。


「楽しかったですね、雛子さん」


「あ、はい。とっても」


「ランチにしては少し時間が遅くなりましたね。お腹空いたでしょう?」


苦笑いを浮かべる市村さんは、右手でお腹をさする仕草をしてみせた。


「いえ、映画に集中していましたから、気にもしてませんでした」


ウソだけど……。


必死に、ぐうぐうなりそうなお腹をおさえこんでいるくらいだし。


「ほんとに?」


「はい。ほんとに」


「ぼくはペコペコだ。今朝は、雛子さんに会えると思ったら緊張してしまって。朝ご飯も喉に通らなかったから」


「緊張、ですか?」


「すっごく」


彼の口から「緊張」なんて言葉が出たことは意外だった。