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「行きましょうか、雛子さん」
映画をエンドロールまで見終え、ひと息つくと、もう午後2時を回っていた。
「はい」
車へ戻り、ようやく本来の目的のために、レストランへ向かうことになった。
「楽しかったですね、雛子さん」
「あ、はい。とっても」
「ランチにしては少し時間が遅くなりましたね。お腹空いたでしょう?」
苦笑いを浮かべる市村さんは、右手でお腹をさする仕草をしてみせた。
「いえ、映画に集中していましたから、気にもしてませんでした」
ウソだけど……。
必死に、ぐうぐうなりそうなお腹をおさえこんでいるくらいだし。
「ほんとに?」
「はい。ほんとに」
「ぼくはペコペコだ。今朝は、雛子さんに会えると思ったら緊張してしまって。朝ご飯も喉に通らなかったから」
「緊張、ですか?」
「すっごく」
彼の口から「緊張」なんて言葉が出たことは意外だった。


