初恋プーサン*甘いね、唇



まだお昼には早いということで、しばらくドライブをすることになった。


思えば、約束の時間を決めたのは彼だから、こういうプラスアルファも計算ずくだったのかもしれない。


あのときは、舞いあがって(というより当惑して)そこまで気が回らなかった。


不覚だ。


「楽しく、ないですか?」


顔をあげると、信号待ちでアイドリングしながらのぞきこむ市村さんの顔がすぐそばにあった。


思わず「いえ!」と言いながらのけぞる。


その拍子に、手を引っかけていたレバーを動かしてしまい、シートがガガッと倒れてしまった。


おかげで、歯医者さんの椅子に座った患者のような体勢になってしまった。


あーん、なんて口は開けないけど。


「楽しい、です、よ。へえ、これすごい」


必死にごまかしの笑顔を浮かべながら、シートを戻す。


「そう。ならいいんですけど」


「ええ」


ああ……裸を見られたくらい、恥ずかしい。


「雛子さん」


信号が変わって、アクセルを踏みこんだ市村さんは、交差点を左折して少し直線を進んだところでたずねた。