もっとも、この積極的ともとれる行動が、市村さんをその気にさせたらしく、エンジンをふかして発進してからは、満面の笑みになった。
ただでさえ垂れた目が、縦になろうかというほどで、本当に前を見て運転しているのかしらと思うくらいだ。
しかも、チラチラこっちを向いて話すから、気が気じゃない。
「雛子さんは、何人兄弟なんですか?」
「え、あ、弟がいます」
「そうなんですか。いくつ下ですか?」
「3つ下です」
「へえ。そっかあ」
何が「へえ」なんだろう。
まあ、まずは当たり障りのない会話で空気をほぐそうという魂胆だろうけど。
ちなみに、彼の少し強引っぽい性格からして、予想はできていたけれど、一応聞き返してみた。
「市村さんは?」
「ぼくはひとりっ子ですよ」
やっぱり。
ひとりっ子を敵に回すつもりも、ひと絡げにするつもりもないけれど、どこかそんな気がした。
彼は、いい人なんだけど、どうも「相手の空気を読む」という作業が苦手に見えるから。
まあ、こういう予想ができるのも、他でもない美咲がひとりっ子だからだ。
彼女とどこか波長が似ているから、性格などに推測が立っただけの話。
ほんとに、私のまわりにはこういう人ばっかりが近づいてくる。


