「ちゃんと準備できた?雛子」
半分ほどグラスを空けたところで、唐突に美咲が言った。
「なんの?」
「心の。今日し損ねたお誘いの続きは来週よ、きっと」
「お誘いねえ」
まあ可能性はないとは言い切れない。
完全に忘れていたけれど、話せば思い出してくれるとか。
記憶はないけれど、今の私自体に好意を持ってくれているとか。
強引さに目をつぶれば、推測はつかないこともない。
確率は、泣けてくるほど低いものの。
「勝負よ、来週が」
強調された勝負という言葉に一瞬だけ戸惑い、直後に縮みあがった。
勝負事に今まで勝ったためしがない私には、荷が重いことこの上ない。
3択で運任せのじゃんけんでさえ、通算成績は2割にも達しないんじゃないかというくらいだ。
あえて避けて生きてきたくらいだから、できれば勘弁してほしい。


