「あはは……あ。だからって今日のコーヒー代は高くしないでね。いつも通りのを注文したんだから」
「値段は変えないよ。心配いらないって」
「へえ、同じ値段で高い豆ねえ。なんかありがたくって、美味しさが3割増しって感じ」
と言って、またゴクリ。
「勘定高いなあ、まったく」
会話をぼんやり聞いていると、私もなんだか香りが一段とよくなったように感じた。
どうやら私も、美咲と同じような人間らしい。
女って、高級だとか希少という言葉につくづく弱い生き物だよなあと半分あきれながら、ストローに口をつけた。
「雛ちゃんどうだい?」
「すごくおいしいです。シロップもミルクも入れてないのに」
「本物は、何も加えなくても甘くてうまいんだ」
「なるほど」
冷たくて適度に甘いコーヒーを喉に滑らせると、五臓六腑にしみわたる感じがして心地よかった。
酒飲みの気持ちは分からないけれど、アルコールの有無の違いだけで、仕事終わりの一杯という点ではこんな充足感なのかもしれない。
なんて思いながら、しばらくハワイコナの味わいに酔いしれた。


