「……うーん」
いまいちしっくりこなかった。
実感がないというか。
手伝おうとしたときに他人と話すような言葉を受けたことが、まだ尾を引いているのかもしれない。
苦々しい表情をすると、美咲は大仰にため息をつきながら元の位置にくるりと戻った。
「ダメ」
「何がよ」
「やっぱりアンタの消極的さじゃ、何年かかっても告白には辿り着けそうもないわ。歩いて月を目指そうとする、見当違いの旅人みたいなもん。途方もない」
「見当違いで悪かったわね。私だって、乗れるものなら乗りたいけどさ――」
肝心の「機体」が見つからないのよ、と言ったとき、なんとなく左下の親知らずにかぶり気味の歯茎が痛んだ。
ちょくちょく腫れるのでいい加減抜歯しようとも思うけれど、前に歯医者に行ってレントゲンを撮られたとき、
『根っこが下顎神経に引っかかっている。抜歯で下手をすれば、顎が半年ほど麻痺する可能性もあるよ』
なんて恐ろしい宣告を受けたものだから、決心がつかずそのままにしていた。
幸い真っ直ぐ生えてくれていたから急を要するわけでもないのでいいけれど。
こうしてトラブルが起きるのだけは、実にやっかいだった。


