初恋プーサン*甘いね、唇


「デートしましょう」


とか?と彼の声色を真似してささやく。


「似てない」


思わず吹き出すと、美咲はぶうぶうと口を尖らせた。


「けど、彼も意外にアンタのこと気になってるみたいよ?」


「そう?」


「だって。朗読会のときも、チラチラこっち見てるし」


「あれは、カウンターの上の置き時計を見てるのよ」


事もなげに言うと、美咲は「鈍いなあ」と両手を広げて首を縮ませた。


典型的な日本人顔のくせに、欧米人みたいな仕草だ。


「ありえないでしょう?」


「どうしてよ」


「彼は腕時計をしてるんだから、こっちを見る必要ないし」


「あ……そっか」


たしか、ムスクの腕時計をしていたっけ。


「あの目はね、時計でもなければ、あたしでもない」


スツールの座面を回転させて私のほうを向いた美咲は、例の声色でささやいた。


「雛子さん、あなたを見てるんです」