初恋プーサン*甘いね、唇


彼は、博美さんのことが大のお気に入りだった。


6年前に先立った、奥さんの若いときにものすごく似ているからというのが理由らしい。


でも、当の博美さんは、


「嬉しいんだか悲しいんだか、なんだか複雑よね……」


と、こっそり私たちに戸惑いを吐露していた。


もちろん、マスターには内緒の話。


気に入っている人を戸惑わせていると知れば、ショックのあまりお店をたたんでしまいかねないから(そこまではしないだろうけど)。


マスターは、ひとしきりため息をつき枯らし、あきらめたようにグラスを出してコーヒーを作り始めた。


「で、運命の彼との進展はあったわけ?」


バッグから髪留めを出し、長めの髪を束ねてアップにしながら美咲が言った。


いわゆる、事後調査というやつだ。


「まるっきり」


「最後のほう、なんか話してなかった?」


髪を留め終わり、おしぼりを開けて手を拭く。


「再来週がどうとか言ってたけど……」