「マスターもお疲れ様です」
「いつも優しいね。雛ちゃんは」
そう言って彼は美咲を一瞥する。
バッグを横の空いているスツールに置いていた彼女は、視線に気がついて「はいはい」と面倒くさそうに座り直した。
「マスターこそお疲れ様でございます」
「ございます、が余計でございます」
「あら。それは申し訳ありませんことでございます」
夫婦漫才のようなやりとりは、いつものこと。
まったく、とため息をついたマスターは「それで?」とたずねた。
「注文は?」
「コーヒーふたつ」
美咲はマスターにピースサインと笑顔を作って注文する。
これもまた、いつものこと。
「あいよ。そういえば雛ちゃん。今日は博美ちゃん来てないの?」
「はい。少し残業していて」
「あらら……」
マスターは残念、といった感じで怒り肩を落とす。


