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ニスを塗って艶々しているこげ茶色の木製ドアを開けると、ドアチャイムとひんやりとした冷気が迎えてくれた。
夏の暑い夜道とは大違いの空気は、さながら別天地に思える。
私たちは左側に並んでいるテーブルではなく、右側に6つのスツールがあるカウンターの中央に腰をかけた。
閉店時間が午後8時だから、仕事終わりに来るとここはいつも空いているので、いつしか指定席になっていた。
「遅くまでお疲れさん」
スツールに座ると同時に、桜色の長袖シャツに黒のベストを着て、浅黒い肌をしてやけに長いもみあげが髭とつながっている、見た感じ強面で体格のいい、似顔絵が絶対描きやすいだろうというマスターが言った。
博美さんから教えてもらって初めて訪れたときは、さすがに一瞬身構えそうになったけれど。
話してみると物腰の柔らかい人で、へたな優男よりずっと話しやすかった。
それからもう2年ほど通っているし、ひとり暮らしをしている今の私にとっては、第2のお父さんみたいな存在でもあった。


