「残業するんですか?」
美咲がたずねると、博美さんは肩をすくめた。
「サービス残業。細かい部分が気になっちゃってね。ちょっと修正」
「何か手伝えることはありますか?」
「ありがとう片瀬さん。でも、いいわ。のんびりやるから」
平気よ、と言って、博美さんは笑みを浮かべた。
大人っぽくありながら、頬にえくぼができる意外性や、沖縄出身の母親の血を引いているという、適度な彫りの深さを持った目鼻立ち。
どことなく、キルスティン・ダンストを思わせる。
それでいて結婚7年目というのだから、たまに神々しく見えるほどだ。
「じゃあ私たちは」
帰ります、と美咲が一礼した。
「ええ。お疲れ様」
「お先に失礼します」
私もあとから一礼する。
博美さんは、手を振りながら見送ってくれた。
「また明後日ね」