「じゃあ、枝豆にビール?」


「それは組み合わせでしょう」


「玉の輿に豪邸」


「それは単なる願望――」


「車にナビ」


思いついたように私が口を挟むと、博美さんは「それそれ」と手を叩いた。


「こういう例えをしなきゃ。二ノ宮さん」


「すぐいいとこ持ってくんだから。アンタってば」


美咲は、顔のパーツを中央へ寄せるようにしかめた。


「ふふ。でも大変ですよね、細かい作業で」


「まあね。でもそういうわけだから、今日はチャクラへは行けないみたい。ごめんなさい」


チャクラというのは、図書館の近くにある、行きつけの喫茶店の名前だ。


初めは『サクラ』だった店名を、最近できた初孫に「チャクラ、チャクラ」と言われて改名したもの。


ヨガなどで使われる「サンスクリット語」とは、まるで無関係らしい。


この辺りは、人がごったがえしているような人気居酒屋なんていうものがない場末の静かな街。


何より、全員お酒が飲めない下戸ということもあり、ひっそりとした場所でゆっくり飲める喫茶店が選ばれたというわけだ。


飲む、の意味合いは違うけれど。