「ねえねえ。『困ります』って、なんのこと?」
嫌な予感がして振り返ると、ニヤけた顔の美咲が背後霊のように立っていた。
まずい!
早速異変を嗅ぎつけられたみたいだ。
「なんでもないって。なんでも……」
冷静を装っても、後の祭り。
ひとたび怪しんだ彼女の追及は、しょうゆがこぼれてついた染みのようにしつこかった。
ごまかす暇さえ与えられずに、5分後にはあっさり全てを吐かされてしまっていた。
「ふうん。市村さんがねえ」
片眉をあげながら、品定めをするみたいに横目で見る美咲。
「断る間もなかったんだから……」
「いいんじゃない?会ってみれば」
「でも、私は――」
言いかけて、口ごもる。


