初恋プーサン*甘いね、唇


市村信也(いちむらしんや)さん。


彼は、1年前くらいに初めて来館したとき、今すぐ読みたいがどの図書館にもなかったという、マイナーな歴史書を探していた。


たまたま応対にあたった私は、本を探してあげた。


それ以来、彼は私の応対や品揃えに気をよくしたらしく、ちょくちょく来館するようになり。


たまにこうして、本を探してくれという電話をかけてきていた。


あのときの対応が気に入られたのかと思うと、やっていることが正しいんだと思って自信にもなった。


仕事を始めたばかりのときは、ただおろおろするだけの「挙動不審な司書」だったけれど……。


「はい。それなら多分あると思います」


『よかった。じゃあ、今度借りにうかがいます』


「はい。では失礼いたしま――」


『あ、待って!』


「……はい?」


いつもなら、ここですんなり切るのに、今回の電話は様子が違っていた。


少し受話器の向こうで息を吸いこむ音がして、彼がおもむろに言った。