初恋プーサン*甘いね、唇


「ふう、ありがとうございます」


大した残骸ぶりではなかったため、物思いに浸かる時間もなく片付けは終わり、彼が笑顔でお礼を言った。


「いえ。とんでもないです。これも仕事ですから」


杏奈ちゃんばりの赤ら顔を見られてはいけないと、私は肩上までの短い髪を駆使して耳を埋め、うつむいたまま大仰に手を左右に振った。


「助かりました。本当にどうも」


「あ、はいはい……」


「じゃあ」


「あ、はいはい……」


なんとも不甲斐ない醜態。


信号を発すべき絶好のタイミングで、全力をもって抑制してしまうなんて。


恥ずかしさを紛らわそうとすればするほど、態度もそっけなくなっていくし。


これでは、例え私のことを覚えていてくれたとしても、心証が悪いに決まっている。


媚態を示していたほうがまだよかった。



『手伝ってきなって。近づくチャンス!』



美咲の言葉が、頭の中でフェードアウトしながら繰り返し渦巻いていた。


きっと彼女も、私の体たらくに失望の眼差しを送っているに違いない。


そんなふうに自分を責めているとき、


「あの」


という声が耳に届いた。


顔を向けると、靴のつま先を床に叩いて感触を合わせている彼が、私を見つめていた。