「えっ……?」


思わず目を開けると、彼の顔が迫っていて、慌てて閉じ直した。


「そう。誰かさんのこと」


ふたりの唇が、重なった。


「……んむ……ぅ……ん」


味わう余裕もあり、それはさっきまで食べたチョコレートの甘みを帯びていた。


「甘いね、唇」


そっと離して、はにかむ彼。




「だったら、もっと――」




今度は私から、彼の口を塞いだ。


シートをたたくように、少しだけ強めの風が吹いた。


子供たちの余韻みたいだったケヤキの葉の音が、いつの間にか祝福の拍手に聞こえてきて。


心の中で、私は誰にともなしに「ありがとう」とつぶやいた――。










Fin……