それに、と彼は続けた。
「ぼくは、もうニ度と君と離れたくなかったんだ。だから、できるだけ近くで感じながら過ごしていきたくて」
「先輩……」
「もっとも、ぼくにとっては利益のリスクより、君と想いが通じ合わなかったらっていう意味でのリスクの方が大きかったわけだけどね」
自嘲気味に笑う彼に、私はかぶりを振った。
「そんなこと……」
市村さんとのことを思い出して「ありえない」と言うのを一瞬ためらった。
彼の優しさに触れて、揺れていたのは事実だから。
最後の最後の別れ際まで、とても優しかった市村さんに出会えたことは、私の心を迷わせたから。
だけど、私は「ありえませんよ」ときっぱり言い切った。
マスターが言っていたように、一途っていうのは揺れないことじゃない。
結果として、初志貫徹した結果こそが一途なんだ。
最初から、10年の片想いを貫くことは決まっていた。
勇気が出ずに、身近な恋に逃避しようとしただけなのだから。
「そっか」
「私は、先輩だけを想って、10年間を生きてきましたから」


