「ごめんね、うるさくて」
「え?」
「本当にごめん」
「うるさいって、先輩のことじゃなくて――」
「分かってる」
――あれ?
お互いに要領を得ない会話になっている感じだった。
複数人でチャットをしているみたいに、どこか会話の流れに時間差が生じているような。
「えっと……」
話がズレていることには気づいたけれど、どこがどう違っていて、論点がなんなのかがいまいち飲みこめなかった。
「ごめん」
ふたたび、彼は謝った。
「どうしたんですか?」
食い違う会話に混乱していると、彼は答えずにそっと手を差し伸べてきた。
「握って」
言われるまま、彼の手をつかむ。
「……な、なんですか?」


