「図書館での禁止事項だけど、今だけ許して」
そう言って、彼はボックスを開け、中から上品な長方形の茶色い箱を取り出した。
ひんやりとしたドライアイスの冷気が机を滑り、冬のため息みたいにすぐ消えた。
「ふふ。ほんと、司書の前で大それた行為」
肩をすくめる私に、彼は「ごめん」と何度も頭を下げた。
「いいですよ。で、それは?」
「ああ、君に持ってきたんだ」
手渡された冷たい箱を受け取ると、フタに「poussin」という白い文字のロゴが入っており、その両端に黄色い小鳥の絵が向かい合うようにして刻まれていた。
「これは?」
「今度オープンする、お店の名前」
「そうなんですか?おめでとうございます!」
「ありがとう」
「これ、どう読むんだろ。えっと……ポウシン?」
表記された単語を適当に読むと、彼は「ううん」とかぶりを振った。
「プーサン」
「へぇ。かわいい名前ですね。でも、やっぱりフランス語は発音も読みも難しいです……。英語ならだいぶ分かるんだけど」


