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「閉館のお時間ですよ」
美咲たちを見送ったあと、私は読書に耽っている彼に近づいた。
自分の職場でありながら、いつもはカウンターにいるので座ることが滅多にない椅子を引いて、静かに腰をかける。
「あ、お疲れ様」
本から視線をはがし、彼は栞代わりの写真を挟んで本を閉じた。
「こちらこそ。読書に夢中だったみたいで」
「そうだね。父さんがこんなにロマンチストだったなんて」
彼はパイプ椅子の背もたれに身体を預けて、軽く伸びをした。
「素敵な小説で、私も気に入ってます」
「ぼくもだ。身内贔屓ってわけでもないけど」
そういえば、と私は思い出したように言った。
「話っていうのは?」
「うん。その前にこれを」
彼は、足元に置いていたクーラーボックスをテーブルの上に乗せた。
「なんだか季節外れですね」
眺めながら言うと、彼は「たしかに」と苦笑した。


