初恋プーサン*甘いね、唇



。・*○*


「閉館のお時間ですよ」


美咲たちを見送ったあと、私は読書に耽っている彼に近づいた。


自分の職場でありながら、いつもはカウンターにいるので座ることが滅多にない椅子を引いて、静かに腰をかける。


「あ、お疲れ様」


本から視線をはがし、彼は栞代わりの写真を挟んで本を閉じた。


「こちらこそ。読書に夢中だったみたいで」


「そうだね。父さんがこんなにロマンチストだったなんて」


彼はパイプ椅子の背もたれに身体を預けて、軽く伸びをした。


「素敵な小説で、私も気に入ってます」


「ぼくもだ。身内贔屓ってわけでもないけど」


そういえば、と私は思い出したように言った。


「話っていうのは?」


「うん。その前にこれを」


彼は、足元に置いていたクーラーボックスをテーブルの上に乗せた。


「なんだか季節外れですね」


眺めながら言うと、彼は「たしかに」と苦笑した。