初恋プーサン*甘いね、唇



。・*○*


閉館の時刻を迎えた。


ふだんでも長いなと思いながら仕事をすることも多いけれど、今日は特に感じていた。


貸し出しや返却をしているときも、レファレンスしているときも、彼の姿ばかり目で追っていた。


根っからのヒヨコ体質なのか、一目惚れしたときの刷りこみ現象はいまだ健在のようだ。


彼は、朗読会が終わってからずっと、読書用の机で本を読んでいた。


私が10年以上借り続けていた、彼のお父さんの本だ。


閉館の時間になった今も、食い入るように読み続けている。


どうやら、本当に初めて読んでいるらしい。


「先に帰るね」


バッグを抱えた美咲と博美さんが事務所から出てきて、カウンターで頬杖をついている私に言った。


「うん。ごめんね、一緒に帰れなくて。博美さんもすみません」


「いいのよ。気にしないで」


「そうそう」


と笑って、美咲は私の背中を平手で叩いた(これがまた結構な強さで痛い)。


「数ヶ月ぶりのふたりっきり。さすがのあたしも、無粋な真似はしないって」


「ありがとう」