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閉館の時刻を迎えた。
ふだんでも長いなと思いながら仕事をすることも多いけれど、今日は特に感じていた。
貸し出しや返却をしているときも、レファレンスしているときも、彼の姿ばかり目で追っていた。
根っからのヒヨコ体質なのか、一目惚れしたときの刷りこみ現象はいまだ健在のようだ。
彼は、朗読会が終わってからずっと、読書用の机で本を読んでいた。
私が10年以上借り続けていた、彼のお父さんの本だ。
閉館の時間になった今も、食い入るように読み続けている。
どうやら、本当に初めて読んでいるらしい。
「先に帰るね」
バッグを抱えた美咲と博美さんが事務所から出てきて、カウンターで頬杖をついている私に言った。
「うん。ごめんね、一緒に帰れなくて。博美さんもすみません」
「いいのよ。気にしないで」
「そうそう」
と笑って、美咲は私の背中を平手で叩いた(これがまた結構な強さで痛い)。
「数ヶ月ぶりのふたりっきり。さすがのあたしも、無粋な真似はしないって」
「ありがとう」


