初恋プーサン*甘いね、唇


オブラートに包むなんてこともしない子供たちは、冷やかしの声をやけに高い音階でやいやいと囃し立てる。


せっかく来た杏奈ちゃんを傷つけたかなと、おそるおそる探すと、彼女はいつのまにか彼のそばへ行き、何事か耳打ちをしていた。


もしかして告白――?


杏奈ちゃんが離れたのを見計らって、腰の辺りでざわめく波を縫い、彼にたずねる。


「何か言われたんですか?」


まあね、と彼は笑って私にも耳打ちをした。


「杏奈ちゃん、ぼくのことが好きだったけど、いない間に別の恋人ができたって」


「ええっ?」


振り返って杏奈ちゃんの姿を追うと、誰もいない読み聞かせのスペースの隅っこで、同じ歳でこれまた常連の祐二君と手をつないで座っていた。


「子供って、そんなもんだよ」


「……ふふっ。みたいですね」


顔を見合わせて仲良さそうに話をしているふたりを、私たちは羨ましく眺めた。


結果的に、私は杏奈ちゃんに勝った形だけれど(一方的な勝負としては)、幸せをつかむスピードで言えば、圧倒的に負けだった。


彼女は私みたいに引きずらず、割り切っていける強いタイプの女性に成長していくのだろう。


好きな人に遠慮なく信号を発するところや、切り替えて別の恋を見つける器用さから見ても、まず間違いない。