今日はお兄さん、つまり彼が2ヶ月ぶりに帰ってくる日で、それは先週子供たちに伝えてあった。
まだ朗読会に復帰するには時間がかかるけれど、顔は見せるからということで、みんなは楽しみに今日を迎えていたのだった。
特に私が。
なので、いつもは10人弱しかいないこのスペースに、今日はなんと15人(杏奈ちゃんを入れると16人)もの子供たちがひしめきあっていた。
まるで、本物の保育園だ。
「よーし。じゃあ、読むぞ」
館長が本を広げて読み始め、私がぼんやりと眺めていると、美咲がいつものように脇腹を小突いてきた。
「雛子、雛子」
「何よ」
もう、と何気なく視線を横に移すと、入り口から見慣れた男性が入ってきた。
秋の準備に入った10月中旬にふさわしい黒のジーンズに白い薄手のブルゾン、インナーに紫のカットソーを着て、肩からなぜか水色のクーラーボックスを抱えた姿は、紛れもなく彼だった。


