「何はさておき、本当によかったわね、片瀬さん」
反対の隣で博美さんが、カップを持って私のに軽く当てる。
彼女の雰囲気や仕草は、シャンゼリゼにいたスタイリッシュな人たちと似ていて、気障っぽい行為や言葉もそう感じさせない魅力があって、すごく様になっている。
この点も、美咲にはできない芸当だ。
「はい。ほんとに」
「わたしの分まで幸せになるのよ」
「博美さんも、今十分幸せですよね?」
「言葉のあやよ、あや」
「はい。しっかり幸せになります」
で、と美咲が口を挟む。
「幸せをつかめたのは誰のおかげ?」
「誰のって?」
彼女は人差し指で自分の鼻の頭をコツコツとたたいた。
「お嬢ちゃん、誰のおかげなのかしら?」
「はいはい。美咲様のおかげです」
「よろしい。雛ちゃんも成長したじゃない。もしかして、キスだけにとどまらず、少女を脱いで大人になってきた、とか?」
ケタケタと笑って、美咲はコーヒーを一気に啜った。
「もう……そういうとこがなければ、才色兼備なのに」
「ん、なんか言った?」
そういう、地獄耳なところも――。


