「あら、雛子どうしたの?」
右を見遣ると、戻ってきた美咲が驚いた顔をして言った。
「ううん。ちょっとね」
「マスターにどつかれた?」
「雛ちゃんや博美ちゃんにはしないよ。美咲ちゃんには別としても」
「別ぅ?」
美咲は特に気にするようすもなく、空気を和ませてスツールに腰をかけた。
ほどなくして博美さんも携帯を閉じながら戻ってきて、同じように驚いた。
「あらあら。マスターにいじわるされた?」
反応まで同じ。
「おいおい。博美ちゃんまで……」
「はは」
美咲は軽く笑いながら、私の背中をさすってくれた。
「嬉し泣きなんて、羨ましいことで」
「ありがとう」
「ん?聞こえない」
「ありがとう」
「ん?」
「あ・り・が・と・う」
「何がとう?」
「……もう言わないっ」
ちぇっ、と舌打ちをして、美咲はコーヒーをおかわり。


