フランスへ渡ったぼくは、語学や文化、風習に揉まれながら、いろいろなことを学び、修行をしてようやく一人前になることができました。
時は流れ、10年が経っていました。
今年の1月に日本に戻ってきたぼくは、いの一番に図書館へ向かいました。
君が父さんの本を返しているかどうかを確かめるためです。
しかし、返していないことを知る前に、ぼくは君の姿を見つけました。
図書館のカウンターで――。
最初は、ものすごく驚きました。
二度と会えないことを覚悟していたので。
ただ、驚いたと同時に、君にピッタリの仕事場だなとも思いました。
君がぼくを見てくれていたように、当時ぼくも君を見ていたので、本好きだということを知っていたからです。
話しかけようかどうか迷いましたが、10年も前の何気ない場面のことを引き合いに出しても、君が忘れていたら迷惑になってしまうんじゃないかと思って。
気づかれないように、図書館を出ました。
そんなときです。
ぼくは、高柳さんに偶然会いました。
「久しぶりだね」
彼にそう言われました。
当時から、彼は毎日来ていたぼくのことはよく知っていたから。
「変わってないね」
高柳さんは、ぼくに手を差し伸べながら微笑んだので、
「ここも、あなたも」
と返して手を握りました。


