「それだよ。本当は、あの日君に手渡そうと思ってたんだけど。ぼくが先に子供たちに辞めるってことを言ったら、君が倒れてしまって」
「…………」
「駆け寄ったとき、カウンターを見たらその本が置いてあったから。とっさに挟んだんだ。これなら、君は確実に気づいてくれるだろうと思って」
知らなかった。
この本に、倒れたあの日からずっとこんな手紙が挟まっていたなんて。
パリへ行く準備で忙しくしていたから、全然開いていなかった。
「そうだったん、ですか……」
私は手紙だけを抜き取って本をバッグにしまい、便箋を広げた。
男らしいカクカクした字は、間違いなく写真の裏に書いてあったものと同じ字体だった。
――突然ごめんなさい。
書き出しは、そうあった。


