「Bonjour, Mademoiselle(こんにちは、マドモアゼル)」
――通じた!
二度目のマドモアゼル発言だ。
怖いおじさんだとばかり思っていた彼が優しげに笑ったので、ここぞとばかりに何度も練習したフランス語で機先を制する。
「Excuse-moi.Je voudrais voir Tsukasa Enishi(すみません。縁司さんに会いたいんですけど)」
「ツカサ?」
上手く通じたかどうかはさておき、司という名前に反応して聞き返してきたので、私は首振り人形みたいに何度もうなずいた。
「イエス、イエス」
なぜか英語で。
「Oui, J`ai compris」
おじさんは、ようやく要領を得たらしく、お店の自動ドアを開けて「ツカサ!」と大声で呼びかけた。
どうやら、彼は今お店にいるらしい。
「Ton amie vient te voir」
店内にそう叫んで向き直ったおじさんは、私にまた何やら話しかけたが、宇宙語にしか聞こえなかった。
だからといって無視するわけにもいかず。
単純に、「待っててね」というニュアンスだろうと推測して、「ウィ」と答えた。
おじさんは首をひねって「ウィ?」とたずねたので、通じなかったのかと思い、「ウィ」としっかりフランス語っぽく発音すると、肩をすくめてお店の中へ入っていった。


