「フラれるって」



沈黙をやぶって、彼が口を開いた。



「こんな気持ちなんですね」



「…………」


「いやあ、初めての恋だったから、当然のことながら、フラれることは初めてで。いい経験をさせ、て、もら、い、ました」


「市村さ……ん?」


嗚咽交じりの語尾に隣を向くと、彼は恥ずかしそうに、シートをさらに倒し、目を腕で覆っていた。


暗くてあまり見えないけれど。


それが何を意味しているのかは、痛いほどに伝わってくる。



「ごめんなさい……市村さん。せっかくのご好意を」



彼の初恋を断ってしまったことに対する、お詫びというと変だけど。


私には、こうして謝ることで気持ちを表すしか思いつかなかった。


「雛子さん」


「はい」


一拍間があって、彼は息を一つ吐きながら言った。




「ひとりに……してください」




「……分かりました」




もし自分が彼の立場でも、同じように言っただろう。



彼の気持ちを汲んで、私は「ごめんなさい」と言って、ドアを開けた。