「…………」


全部分かっていてなお、彼は私に告白してくれた。


きっと、後悔したくないからだと思う。


自分の気持ちにピリオドをつけるため、答えが予想できるのに、わざとしたのだ。


真っ正直で、誠実で。


優しさが身体じゅうから染み出ている彼に、私は目をそむけることなく言った。




「私には、10年以上も前から好きな人がいます。ごめんなさい」




「10年以上、前?」


市村さんの問いに、私も何もかもを話して聞かせた。


ごめんなさいと断ってから、こうして長々と話をしている場合じゃないことを、百も承知で。


「――っていうのが、彼とのすべてなんです」


「驚いたな。雛子さんも、恋愛をしてきてなかった人なんですね」


「はい」


できれば、ひた隠しにしておきたかった事実だけど。


「長い間待ち続けて、これからようやく告白をしにフランスへ……」


「ええ。明後日に」


「そうですか」


ここで、会話が途切れた。


神様が気を利かせたのか、すっかり陽が落ちて、お互いの顔もあまり見えないほど暗い車内。


私は重苦しい雰囲気に、息が詰まりそうだった。


でも、ここで逃げたらいけない。


逃げずに向き合って、あらゆるものを清算しなきゃ、行く意味がないから。