「今日まで朗読会のボランティアをしていた彼、えっと、縁司さんのことなんですけれども……はい。いきなりで失礼ですが、彼の住所ってご存じですか?」


どうやら美咲は、彼の住所を館長から訊いてくれているらしかった。


考えてみれば、彼をボランティアとして受け入れる過程で何かしらの連絡先は知っているはず。


そこまで頭が回らなかった私と違って、絶妙の連係プレーを見せてくれた博美さんや美咲は、ここ一番で頼りになる存在だなと心から思った。


「――はい、はい、305ですね。どうもありがとうございます。失礼します」


取り急ぎお礼を言い、早々に受話器を置いた美咲は、住所を走り書きしたメモ紙を手渡してくれた。


「これが住所よ。以前は両親と住んでたけど、父方の田舎に両親ともに引っ越したから、今はひとり暮らしをしてるみたい。ここから意外と近いわよ」


「ありがとう。恩に着る」


「今度おごってもらうから大丈夫。もちろんチャクラで」


ね?と隣の博美さんに言うと、彼女もうなずいた。


「いいわね。新しい豆が入ったって二ノ宮さんに聞いたから、ぜひ無料で飲んでみたいものだわ。おごりだと、味もまた格別だろうし」


「はい……。ちゃんとおごります」


「ほら。早く行ってきなって」


美咲は手の甲を見せながら振り、追い払うように言った。


「あ、うん。ありがとう」


私は深くお辞儀をし、メモを頼りに彼の自宅へ向かった。