「シンデレラか。いいお話を選んだね」
表紙を眺めて言った彼は、杏奈ちゃんの頭を撫でた。
彼女は、恥ずかしそうに目をギュッとつむり、肩をすくめながらさらに肌を赤らめた。
見ていると、こっちまで耳が火照ってきてしまう。
心で「分かるよその気持ち」と語りかけ、反面とても羨ましく思っていた。
10年間想い続けて生きてきた私でさえ、彼に触れられたことなんて、一回あったかどうか。
温もりは、とっくに忘れてしまったし……。
「ぐずぐずしてると、あの子に盗られちゃうよ?」
ドキッとして振り返ると、美咲が眉を吊りあげて杏奈ちゃんを顎でさした。
「盗られる?」
「あの子とアンタ。どっちが先に告白するのやら~」
「まさか。やめてよ、子供がライバルだなんて」
「あながち侮ってもいられないと思うけど?あっちは恋愛感情ありますって信号を引切りなしに発してるけど、こっちはそれを自制してるんだから。誰がどう考えても、圧倒的に分が悪いって」
悲しいかな、反論できない自分が情けなかった。
引っこみ思案なところは杏奈ちゃんと五十歩百歩なのに。
発している信号の量で差がついているなんて。
だからといって、今さら発しなさいと言われても、妙な良識と理性が許可を出してくれるはずもないし。
惜しみなく発する子供と、抑制する大人。
(美咲の言う通り、これはライバルかも)
共感していた気持ちはいずこともなく消し飛び、私は密かに彼女の動向を注視し始めた。


