「このハワイコナは、前に話した通りのオールドコナだ。長い時間エイジングさせて、味が最大限引き出されてる」
「言ってましたね」
「雛ちゃんの初恋も同じだよ」
「同じ?」
「長い時間寝かせていた初恋の純粋な片想い。それを今ようやくどうにかしたいと思って悩んでいる」
だろう? とマスターが言った。
「はい」
「ずっと育んできた恋は、このオールドコナと同じ。10年間もエイジングした思いっていうのは、美装したどんな絶世の美女よりも心を虜にできる味、魅力になってるはずだ」
「…………」
「雛ちゃんには、必ずそれが身についてる。だからおじさんとしては、せっかくの魅力をあきらめて無駄にしてほしくはないな」
そう言ってマスターは瓶を軽く振った。
この豆のようになれ、というような比喩的行為に、思わず喉がぐっと鳴った。
「…………」
「なあ。一度聞きたかったんだけど、いいかい?」
「はい?」
マスターは、瓶を持ったまま言った。
「市村さんが死んだら、雛ちゃん自身はどうなると思う?」
「えっ!?」


