初恋プーサン*甘いね、唇


「推進剤でしたよね、このコーヒー。結論をどう出すかは決まってないけど、とりあえず補給しておこうと思って」


「うん。たっぷり飲んで、鋭気に満ちた自分にならないとね」


「なれればいいんですけどね……ふふ」


マスターとこんなふうに話すことは二度目だけれど、本当に落ち着く。


見た感じは、ショーン・コネリーのような太めの眉とヒゲをたくわえた強面なのに。


話してみると、優しい口調というギャップも好印象。


実の父は、見た目もいたって平均的で、喋り方もこれまた一般的という感じだから、余計に比較して見てしまっているのかもしれない。


本当に、話しやすい人だ。


「雛ちゃん」


ふとマスターが声をかけた。


「なんですか?」


「この前、美咲ちゃんと来たときに、コナの話をしたよね」


「たしか、本物は希少品で生産量も限られているっていうやつですよね?」


「そう。でね、雛ちゃんは、コナに似ていると思うんだ」


「コナに?」


「そう」と返事をしたマスターは、カウンターの後ろにある棚から瓶を手に取った。


中には、黒々としたコーヒーの豆が8割ほど入っている。