初恋プーサン*甘いね、唇


「そうなんです」


腕を組んだマスターは、唸りに似たため息をついた。


「10年間の片想い、別れ、再会、突然のボランティア辞退、そして渡仏か。ものすごく変化の激しい初恋だね」


思えば本当に激動だ。


叶わない、とすぐに切り替えて別の恋で満足することができる人間だったら、どれだけ楽だろうと思うこともよくある。


不器用に生まれたばっかりに、変化がどれだけ激しくてもついていくしか術がないなんて。


かといって、あきらめられる潔さもなく、変なところで頑固な一面があるし。


それでいて、新しく現れた人に揺れたりもして。


自分でも自分が分からなくなる。


ただの臆病な人間なのか、美咲の言うように情熱家なのか。


立ち位置さえいまだ定まらない不安定な女が、例えこのまま彼に告白できたとしても、振り向いてくれるわけがない。


好きだけじゃダメ、という何かの歌を思い出しながら、私はストローでコーヒーを啜った。


「うまいかい?」


「とっても」


マスターは満足そうに笑う。


「そりゃよかった」