「なんかあったの?」
手を動かしながら、マスターは私を見た。
「……分かりますか?」
「まあね。雛ちゃんは特に分かりやすいから」
「……ですよね」
彼は手際よくアイスコーヒーを作り終え、ストローをさしたグラスを私の前へ置いた。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
で、と話を戻しながら、マスターは背の高いスツールに座った。
「市村さんとかいう人のこと?それとも、ボランティアの彼のこと?」
「両方ってところです」
「ほう。こんなおじさんでよければ聞くよ。一応青年だった時期もあったから、いくらかアドバイスできるかもしれんし」
相変わらず物腰の穏やかなマスターに、私は今日あった出来事をすべて話した。
美咲もいないことだし、からかわれることはないだろうと踏んでいたこともあって、先週みたいに、いたって素直に。
「――そうか。彼がパリに」
「はい」
「だから朗読会を辞めるってわけだね」


