初恋プーサン*甘いね、唇



。・*○*


チャクラのドアを開けると、入れ違いでひと組のカップルが出ていった。


ご丁寧に、指を絡めるようにして手をつないでいる。


「おや、雛ちゃん」


ドアを閉めると、相変わらずの鈴の音とひんやりした冷気、そしてマスターの声が聞こえた。


「また、ひとりで来ちゃいました……」


苦笑しながら、いつものスツールに腰をかける。


座面が少し温かい。


「ちょうど波をこえたところだよ。ちょっと待っててね。お皿とか引いちゃうから」


さっきのカップルがこの席に着いていたらしく、マスターはさっとカップなどを引いてカウンターをひと拭きした。


「まだ4時だよ。図書館は?」


「ちょっと色々あって。早退しちゃいました」


「へえ、そうなんだ」


なんにする?と付け加えたマスターに、人差し指を立てる。


「こないだみたいな、アイスコーヒーを」


「了解」


静かな店内に、マスターのグラスを用意する音や、氷を入れる音だけが響く。


いつもなら、隣で美咲や博美さんの話し声がするから、たまにはこういう静かなのもいいかも。