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チャクラのドアを開けると、入れ違いでひと組のカップルが出ていった。
ご丁寧に、指を絡めるようにして手をつないでいる。
「おや、雛ちゃん」
ドアを閉めると、相変わらずの鈴の音とひんやりした冷気、そしてマスターの声が聞こえた。
「また、ひとりで来ちゃいました……」
苦笑しながら、いつものスツールに腰をかける。
座面が少し温かい。
「ちょうど波をこえたところだよ。ちょっと待っててね。お皿とか引いちゃうから」
さっきのカップルがこの席に着いていたらしく、マスターはさっとカップなどを引いてカウンターをひと拭きした。
「まだ4時だよ。図書館は?」
「ちょっと色々あって。早退しちゃいました」
「へえ、そうなんだ」
なんにする?と付け加えたマスターに、人差し指を立てる。
「こないだみたいな、アイスコーヒーを」
「了解」
静かな店内に、マスターのグラスを用意する音や、氷を入れる音だけが響く。
いつもなら、隣で美咲や博美さんの話し声がするから、たまにはこういう静かなのもいいかも。


