「尾の近くに模様がついてるやつ。あの熱帯魚」
指を差した先に、見慣れた斑点のついた赤い魚が見えた。
「ほんとだ。言われてみれば、それっぽい模様ね」
「ショップで見つけて、最近飼い始めたの――って、話してたら冷めちゃうね。さあ飲んで飲んで」
美咲に促され、マグを鼻に近づけて香りをかいだ。
「いい香り」
「柑橘系で、紅茶みたいでしょう」
「違うの?」
美咲はうなずいた。
「レモングラスと紅茶を少し合わせた、ハーブティーよ。こういうのにも凝りだしてね」
「ふうん」
喉に滑らせると、温かい感触がじわりと身体に染み入った。
水槽のエアーの音だけが静かに鳴る、まるで時間の概念を忘れそうな空間に、強張っていた心がほぐれて緩んでいく感じがする。


