彼はいつものようにカーペットの上へあがり、たちまち子供たちに溶けこんで談笑を始めた。
杏奈ちゃんは例によって、恥ずかしそうに彼のことを上目でチラチラとうかがっていた(そういう私も、彼女と彼を交互にうかがっていた)。
談笑の間に本を2冊選び出し、彼は話の流れに上手く子供たちを乗せたまま朗読を始めた。
自分の世界に惹きこむ扱いはやはり見事。
母親でさえ手を焼くやんちゃな子も、いつの間にか体育座りをするほど。
彼の朗読の声と、笑いどころや驚きどころで見事なまでにハミングするような子供たちの一喜一憂は、しばらくの間続いた。
――と。
ここまでは、いつもの光景だった。