「アンタそれもたずねてみたら?」
「えっ?」
「今何してるのか、どんな香水をつけてるのか。このふたつ」
「そんなにたくさん聞けないって」
「なんでよ。ひとつもふたつも同じでしょう?」
事も無げに言うけれど、今の私には酷というものだ。
「簡単に言わないで。大変なんだからね、ひとつだけでも」
「市村さんとは自然に会話できたのに?」
「それとこれとは、次元が違うの」
やれやれ、と美咲は肩をすくめた。
「この子に何を言ってもダメね」とでも思ったのだろうか。
だとしても、私には私のペースがあるし。
20と数年間もこの性格で生きてきたのだから、そう容易には変わらない。
市村さんが放つ雰囲気と、司さんの放つ雰囲気は違う。
だいたい、小型熱帯魚だとかモモンガ以上に臆病な私が恋愛すること自体、水嫌いがドーバー海峡を泳いで横断するようなものなのだから。
じゃあ恋愛するなって言われれば、身も蓋もないけれど。


