『待ってるわよ』
期待を含んだ言葉を残し電話は切れた。
ツーツーと空しい音が鼓膜を揺さぶる。
微動だにしないカイトに不安げな瞳を由姫華は向けた。彼女がすがるような眼をするのは初めて見た。
「カイト?こっちに来てくれないの?」
返答をせず、カイトは手の中にあるきつく握りしめた。
歯を食いしばり襲ってくる多種の感情をこらえ、暴走する心臓を制御しようと必死だった。
行ってはダメだ。ここで行ったら裏切ることになる。
二回もこの方を裏切れない。
カイトは生唾を飲み込み、一歩部屋の中に踏み入れた。
これでいいんだ、とカイトは自身に言った。
悪いのは自分で好きな方のそばにいられないのが相応する罰だというなら、これも定め。
由姫華の額に手を伸ばそうとするが、もう一人の自分にそれを無理やり止められる。


