「沙良はそんなこと言わないわ」
椿野は理性を保つように目を閉じた。
ワシントンの位置を知らないアメリカ人に言うように、椿野は鼻で笑った。
「それに、沙良のほうが何十倍も可愛いわ」
「………なんですってぇ?」
自分を完全否定された由姫華は、獣の威嚇ような声を漏らした。
執事のレンは由姫華から預かったワイングラスを傾けている。
整った顔立ちが、至福の色に染まっている。
そこだけ見てると、いまにも爆発しそうな由姫華の存在さえ忘れられる気がした。
しかしこの男。
自分の主人が暴走しかけているというのに暢気なものだ。
「ねたむのも大概にしてくれるかしら?椿野さん………」
「沙良をねたむのも、大概にしていただける?妹さん」
あっさり返した椿野に、由姫華は肩を震わせた。


